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適切な薬物療法と運動療法の両輪が大事

みなさんこんにちは。
PD itの小川順也です。

 

あっという間に2022年が終わってしまいますね。
今年はみなさんにとってどんな年でしたか?

 

 

2021年は講演依頼が3回程度だったんですが、
2022年は23回もご依頼いただきました。

 

全国の神経内科の先生や医療従事者の方々へ
パーキンソン病のリハビリテーションについて話をしました。

 

特に、発症早期からの運動と
運動継続の必要性をお伝えできたのでとてもよかったです。

 

 

今日のテーマは

 

「適切な薬物療法と運動療法」

 

です。

 

パーソナルトレーニングに新規で来る方で
パーキンソン病の治療薬である
ドーパミンの薬
を先延ばしにしたいという方が結構います。

 

 

 

ちょっと前までは、ドーパミンの薬は先に伸ばして
他の薬からスタートした方がいいのでは?
という流れがありました。

 

 

 

その流れもあって、パーキンソン病当事者の方々のブログなどでも
ドーパミンの薬は飲まないように〜
ということが書かれることが増えたようです。

 

 

というのも、服薬による副作用として言われている
ウェアリングオフジスキネジアなどの症状は
ドーパミンの薬を飲んで数年すると出てくる
ということが言われていたからかもしれません。

 

 

 

本当にその通りなのか調べた研究論文は以下です。

The modern pre-levodopa era of Parkinson’s disease: insights into motor complications from sub-Saharan Africa
(パーキンソン病の現代のレボドパ以前の時代:サハラ以南のアフリカからの運動合併症への洞察)

 

論文リンク↓↓

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4163032/

 

 

医療体制がまだ整っていないガーナと
医療体制が整っているイタリア
の患者さんを比べています。

 

 

 

ガーナは診断までも5年くらい時間がかかるし、
診断されてから1年後にドーパミンの服薬が始まります。

 

 

 

イタリアは診断も比較的すぐにされて、
ドーパミンの服薬も比較的早く始まります。

 

 

 

では、
ジスキネジアやウェアリングオフの出現時期に大きな差はあるのか?

 

 

 

研究結果をみると、
イタリアでは服薬から約5年経つとウェアリングオフが出て、
そこから1年くらい経つとジスキネジアが出てくるようなデータです。

 

 

 

一方、
ガーナは服薬開始までに6年近くかかっています。

 

 


そして6年目くらいの時にドーパミンの薬を飲むと
その1ヶ月後くらいにはウェアリングオフの症状が出てくる
というデータでした。

 


その1年後くらいにジスキネジアが出てきます。

 

 

当初の予想では
ドーパミンの薬を飲んでる期間が長いことが
ウェアリングオフやジスキネジアが生じる原因だと考えています。

 

 

 

そのため、ガーナの方々は服薬開始から5年以上経ってから出てくるような気がします。

 

 

 

しかし、そうではなく、この研究では
服薬開始から1ヶ月くらいでウェアリングオフが出てきました。

 

 

 

この結果から、
ドーパミンを早く開始することが、
ウェアリングオフやジスキネジアが出る要因ではない可能性が示されました。

 

 

 

 

では、どういった要因なのか?

 

 

 

 

この論文の最後には
ウェアリングオフやジスキネジアの要因は

 

 

① 疾患罹病期間

② ドーパミンの服薬量

 


が影響するということが言われていました。

 

 

 

疾患の罹病期間が長くなると
ドーパミンに関与する細胞が少なくなっていきます。

 

 

 

その結果、ウェアリングオフやジスキネジアといった症状が出ます。

 

 

 

そして、ドーパミンの服薬量が多すぎてしまうと
これらの症状が出るリスクは高まると
言われています。

 

 

 

この論文から読み取れることは
パーキンソン病の進行予防にとても大切なのは

 

 

・ドーパミンに関与する細胞を出来るだけ維持させる

・服薬量を出来るだけ抑える(無理なく)

 

です。

 

 

 

このことを踏まえて

運動に関する論文をまとめます。

 

 

 

今回紹介するのは2つです。

 

1つ目は

Intensive Rehabilitation Treatment in Early Parkinson’s Disease: A Randomized Pilot Study With a 2-Year Follow-up

(初期のパーキンソン病における集中的なリハビリテーション治療: 2 年間の追跡調査によるランダム化パイロット研究)

 

論文リンク↓↓
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1545968314542981

 

 

 

この研究は2つのグループを2年間観察しています。

 

 

 

それぞれのグループの内訳は、

 

 

1グループ:自然に経過した人たち

2グループ:年に1回の集中的な運動をしたグループ(1日3時間、週5日を4週間)

 

 

 

です。

 

 

この研究の結果は、
パーキンソン病の世界的な評価スケールである
UPDRS-partⅢ(体の動き)
は2年間で2グループが有意な改善をしていました。

 

 

 

そして、服薬量は
最初の服薬量(レボドパ合剤換算量)は100mg/dayだったのに対して

 

 

 

 

1グループは350mg/day付近まで増えています。

2グループは150mg/day付近でした。

 

 

 

年に1回集中的な運動をした人たちは、
薬の量があまり増えていないけれど、
体の動きを改善・維持出来ているという結果が出ました。

 

 

 

 

 

次の論文は

Intensive Rehabilitation Increases BDNF Serum Levels in Parkinsonian Patients: A Randomized Stud

(集中的なリハビリテーションはパーキンソン病患者のBDNF血清レベルを増加させる:無作為化試験)

 

この論文のリンク↓↓

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1545968313508474?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

 

 

 

こちらの論文では、
先の論文の研究者と同じ方が発表しています。

 

 

 

この研究も、集中的な運動介入をしている人としていない人を比べています。

 

 

 

集中的な運動介入を1ヶ月行ったグループの
BDNF血清レベル(脳由来神経栄養因子)が上がった
という報告です

 

 

 

これはどういうことかというと、

 

 

 

BDNFは栄養因子なので、脳神経細胞に良い効果
を示してくれます。

 

 

 

神経細胞の保護、可塑性に繋がるのではないか?

と言われています。

 

 

運動の1つ目の論文では、
1年に1度の集中的に運動をすることで
2年後も服薬量を抑えつつ、体の動きも維持出来る。

 

 

 

2つ目の論文では、
集中的な運動は脳に行き渡る栄養因子も増やせることで、
神経の保護作用につながるかもしれない。

 

 

 

ということが言われました。

 

 

 

最初の服薬についての論文と運動の2つの論文から考察すると

 

 

ウェアリングオフやジスキネジアの要因としては

 

 

① 疾患罹病期間

② ドーパミンの服薬量

 

 

が影響するということが言われていました。

 

 

 

進行予防には

 

 

 

 

 

①ドーパミンに関与する細胞を出来るだけ維持させる

②服薬量を出来るだけ抑える(無理なく)

 

 

 

 

が重要で
これを達成するためには運動が必要ということです。

 

 

 

この「運動」に関しては、

散歩やストレッチなど軽い運動ももちろん大事なんですが、

 

 

 

① ちょっと汗ばむくらいの運動(有酸素運動)

② 自分の体の状態に合った運動

 

 

 

が重要です。

具体的な運動についてはまたまとめる機会を作りたいと思います。

 

 

 

薬物療法については、主治医の先生としっかりと話し合って決めましょう。

 

 

 

日常生活が明らかにきつい状態で、
ドーパミンの薬を先延ばしにしようとする方がいます。

 

 

 


しかし、今回紹介した論文で言われているように、
ドーパミンの服薬期間が副作用を起こすわけではない
ということも言われています。

 

 

 

そのため、しっかりと先生と話し合って
ドーパミンの服薬に関して決断していきましょう。

 

 

 

そして、


早期からの運動習慣がとても大事


です。

 

 

 

なんでも良いから運動ではなくて、
パーキンソン病の特徴をしっかりと理解した上で、
ご自身に合う運動を継続していくこと。

 

 

 

そして、
1年に1回はすごく頑張って負荷を高めて運動する時期を作る
ことがとても重要です。

 

 

このような最新情報を常に更新して、
みなさんに伝えられたらと思います。

 

小川順也

 

 

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執筆者

小川順也

理学療法士/LSVT BIG認定療法士

2011年〜2015年 国立精神・神経医療研究センター病院勤務

2017年〜株式会社Smile Space代表取締役就任

2022年は

パーキンソン病・運動障害疾患コングレスのPDナース・メディカルスタッフ研修会にてパーキンソン病のリハビリテーションというテーマで医療従事者へ向け講演を実施。その他多数の講演にてパーキンソン病のリハビリテーションを啓発している。

著書:パーキンソン病と診断されたら最初に読む運動の本(日東書院)

共著:パーキンソン病の医学的リハビリテーション、神経難病100の叡智

投稿:百年人生におけるパーキンソン病治療の展望 第四刊 「診断早期からの運動継続プログラムで根治療法が確立されるまで動ける体作り」

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